2016年3月8日火曜日

ドン底のスペイン

不動産バブルの崩壊、巨額の不良債権、5割にのぼる若年失業率……スペインは2012年、深刻な金融・経済危機に直面し、世界的なニュースになりました。

しかし、こうした国家的危機はこの国にとってそう珍しいわけでもありません。たとえば、1898年のアメリカとの米西戦争敗北も、国の根幹を揺るがす歴史的な危機でした。

1492年にコロンブスがアメリカ大陸に上陸してから、いわば“帝国”としてのスペインが営々と築かれました。

ヨーロッパではネーデルラントや南イタリアを属領とし、中南米、フィリピン、マカオ、アフリカ沿岸などにも勢力を広げて、領土のどこかでいつも日が昇っている「太陽の沈まない国」を実現します。

しかし、大航海時代に世界最強を誇った無敵艦隊も1588年のイングランド上陸作戦で壊滅。80年戦争や西仏戦争に敗れて、次第にヨーロッパの覇権は衰えます。

19世紀に入ると、中南米諸国の独立運動が各地で起こり、新大陸の植民地も次々と失っていきました。

そして1898年、米西戦争に敗北。最後に残っていた植民地キューバも失い、帝国は完全に崩壊したのです。政治的な大危機にともなって、国内の経済や社会も疲弊しきりました。

こうしたドン底の祖国をなんとか生き返らせようと立ち上がったのが、アントニオ・マチャードをはじめとする「1898年世代」と呼ばれる作家や詩人たちです。

98年世代は、スペインを根本的に見直し、大帝国時代の華やかさではなく、この国にもともと宿っている魂を探り再生への道を求めました。それを象徴するのがスペイン中央部のカスティーリャの地だったのです。

夏は太陽が容赦なく照りつけ、冬は体の底まで凍てつかせる。赤茶けて荒涼とした、あの「ドン・キホーテ」が書かれ、舞台にもなったところ。

マチャードは1875年、スペイン南部の明るく温暖なセビーリャに生まれました。しかし、フランス語の教師としてその後、故郷とは全く異なる気候と風土のカスティーリャへ赴任します。

そしてこの地の厳しい環境と、そこで暮らす素朴な人たちに深い共感を抱くようになります。レオノールという運命の少女に出会い、結婚するのもここでのことでした。


1912年には、『カスティーリャの野』(Campos de Castilla)=写真、wiki=という詩集を出版しています。

  すがれた秋の
  どんよりとした暗鬱な夕ぐれ
  むきだしの不毛な野を
  風変りな男がひとり さまよう

  干からびた曠野の道を通って
  生気のないポプラの大木のあいだを
  ただひとり おのれの影と狂気といっしょに
  狂人が行く 大きな声でわめきながら

  ほの暗い野のはるか彼方には
  茨や灌木の茂みに蔽われた丘が見える
  とげとげしい梢を冠にいただいた
  古い柏の林の廃墟が見える

この詩集に載っている「或る狂人」(大島博光訳)という詩の一部です。

「私たちに内在している深い精神の鼓動を、さざ波のように伝えてくれる」といわれるマチャードの詩は、100年後に起こったスペイン危機にあえぐ人たちの心の深いところにも、きっと響いているに違いないと私は思っています。

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