2016年5月11日水曜日

ドン・ロドリーゴの嘆き

スペインの詩情を如実に反映した文学ジャンルともいわれるロマンセは、フランスやイギリスの叙事詩をも取りこんで発展してきました。

フランスの中世には、スペインよりはるかに多くの英雄叙事詩が作られ、14世紀までは存続します。しかしフランスでは、自国の叙事詩の遺産を継承することはありませんでした。

イギリス、ドイツ、北欧諸国も同様です。これらの国々では、ルネサンスの到来が中世との断絶を意味していました。

これに対して、今日まで命脈を保ち続けたスペインの伝承歌謡であるロマンセは、逆に、バイロンなど多くの外国の文人を魅惑し、彼らに大きな影響を与えることにもなったのです。

その一例として牛島は、モーロ人の侵入によって亡国の憂き目にあった西ゴード王国最後の王、ドン・ロドリーゴの嘆きを歌ったロマンセをあげています。

  昨日はスペインの王だったが
  今日は町の長ですらない
  昨日は町や城を所有していたが
  今日はまったくの無一物
  昨日は家来を従えていたのに
  今日は仕える者もなく
  これこそわが物といえる
  銃眼胸壁ひとつない


この一節は、ヴィクトル・ユゴー(Victor, Marie Hugo、1802-1885)=写真、wiki=の「敗戦」(『東方詩集』所収)で、次のように蘇っているというのです。

  きのうはもっていた、城や美しい町々
  ユダヤの奴らに売る何千ものギリシャの女奴隷
  そして広大なハレム 巨大な武具庫。
  きょうは裸同然 打ちやぶられ追われ傷ついて
  逃げていく……この帝国に ああ! 何が残ったか
  アッラーよ! 銃眼付の塔ひとつないのです!(辻昶訳)

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