2016年5月13日金曜日

大衆的リアリズム

英、仏、独にも14世紀から15世紀にかけて、ロマンセのような民衆的詩形式のバラードがありましたが、長続きはしませんでした。

しかしスペインのロマンセは、14世紀末以降、各時代を通してすぐれた詩人たちに愛好されてきました。

スペインの文学は「芸術のための芸術」といった芸術至上主義よりは、現実に、あるいは実生活に密着したプラグマティズム的な傾向が強いといわれます。

それは、大衆に向けられた文学としてのリアリズムであり、地方性でもあるのです。

民衆歌謡のロマンセをはじめ、中世の叙事詩やロペ・デ・ベガ(Lope de Vega、1562-1635)=写真、wiki=の演劇、ピカレスク小説がそのいい例です。


こうした「民衆性」は作品が伝えられていくうちに、さまざまな人びとによって改良、改ざんされる、集団性、共有性とでも呼ぶべき性格を伴います。

「黄金世紀」の演劇で、オリジナルの姿のままで伝わっているものは多くはありません。

作品を書きあげた作者が座頭や役者たちに渡すと、彼らはまるで共有財産ででもあるかのように手を加えてしまうのです。

よく知られているように『ドン・キホーテ』も剽窃をまぬがれませんでした。

セルバンテスの『後篇』が出版される前の年に、アロンソ・フェルナンデス・デ・アベリャネーダなる男がタラゴナ市で偽作『ドン・キホーテ』を発表しました。

偽作の出来ばえはなかなかのもので、権威ある「カスティーリャ古典叢書」としていまも本物といっしょに並んでいるそうです。

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