2017年7月22日土曜日

日夏耿之介「黒瞳」「照る日の下に」

 きょうも『転身の頌』から二つ詩を読みます。

   黒瞳

燭(そく)の灯をとれ
灯は憤怒(いか)りて いくたびか乱舞したれば
火逝かば
寂莫(じやくばく)の夜の暗黒(やみ)の黒瞳(ひとみ)をみとれ
闇は 性急につぶやけり
暗黒は眼(まなこ)をしばだたけり
爾(なんぢ)は闇より生るる嗤笑を聆(き)きしか

   ◇

「寂莫」は、じゃくまく、とも読んで、寂しいほど、ひっそりしているさまをいいます。

「嗤笑」(ししょう)は、あざけり笑うこと、嘲笑。「此言を聞く者、咸(みな)予を嗤笑して以て狂と為し」(幸田露伴「運命」)


   照る日の下に

照る日の下に 暗黒世界あり
裸身(はだかみ)にして 人人奔(わし)り狂ふ
男あり女もまた在り
緘黙(かんもく)は世界に咳(しはぶき)す
わが右手(めて)を翻せば
人人俯仰(ふぎやう)して仆る
たとへば砂丘の上に横死する魚類の若(ごと)し
人人笑ひ泣き且つ怒る
私語するもあり
押しなべて一顫音(せんおん)を引くのみ
わが弓手(ゆんで)を振れば
轟(とどろ)きありて地は乾割(ひわ)れ
人人悉く没落し去る
懸念に勝(た)へざる也

   ◇

「緘黙」(かんもく)は、原因によらず、明瞭な言語反応が欠如した状態を指します。

「仆る」は、「たうる」。「たおれる」の文語形、倒る、殪る、斃る、とも書きます。

「顫音」は装飾音の一種トリルのことで、ある音と、それより二度上または下の音とをかわるがわる素早く鳴らします。

「弓手」は、弓を持つほうの手、左の手をいいます。

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