2017年8月2日水曜日

日夏耿之介「三鞭酒」「房星」

 きょうも『転身の頌』から二つ詩を読みます。

   三鞭酒――又は流火の歌

良後(あたらよ)の天床(ふしど)に於ける片破星(かたわれぼし)は
夥しくこぼれし三鞭酒(しやんべんしゆ)の一滴にすぎず
微星(ぬかぼし)らの声音(こわね)を好む
神経質の笑ひにて
其存在を精密に高度に知覚すべければ
詼諧(くわいかい)よ 衝動よ 慟哭よ 歓呼よ
房心楽しみ快飲するとき
屡(しばしば)声高く叫ぶなり
快く目醒ましき凄壮の奇襲戦よ
醗酵せる焮衝(きんしよう)よ 跛足(はそく)の悲嘆よ 地上讃美よ
爾の小賢しき毛髪と
快く熟眠せる四肢と戯謔(ぎぎやく)好きの黒瞳とを嘉す
爾 何を思索するもよし喋言するも亦よし
いで黄金杯高くかかげ
われらが片破星らを頌(ことほ)がむ

   ◇

中国では3種類の動物の陰茎を漬けて、強精剤としての効果もあるとされる酒を「三鞭酒」(サンピエンチユウ)というそうですが、ここでいうのはシャンパンのことでしょう。すなわち、フランスのシャンパーニュ地方でつくられる、アルコール分13%前後の発泡性ブドウ酒です。

「片破」(かたわれ)は、かけら、細かいかけらの意。

「詼諧」(かいかい)は、こっけいな言動をしてふざけること。おどけ。諧謔(かいぎゃく)。

「焮衝」(きんしょう)は、からだの一局部が赤くはれて熱をもち、痛むこと、炎症。


   房星

房星(ばうせい) 遠流(をんる)にありて
黄金(こがね)の鈴さはやかに鳴らす也
われ 房星の彳みを見きはめて
みづからのたましひの蒙塵(もうぢん)を感ず
わが肌の細胞にいと鮮かなるその鈴の音(ね)よ
王者なれば われは美服(びふく)し
浄光肉身にして
かの貴金属の孤唱(こしやう)をきかむ
怪綺なる痙攣(けいれん) いまわが骨を埋没(うづめ)たり
房星らをして死なしめな
房星らをしてたのしましめな
ああ 孕(はら)みしわが心 疲れぬる

   ◇

「房星」は、二十八宿の房(ぼう)宿の和名。サソリ座の頭部の四星から成ります。

二十八宿というのは、黄道に沿う天空の部分に設けた二八の中国の星座。月がだいたい一日に一宿ずつ宿るところと考えられました。

各宿の間隔は等分というわけではありませんが、それぞれ規準になる星があります。房宿は二十八宿のひとつで、サソリ座の頭部の四星から成ります。

「蒙塵」は、もともと宮城の外に出て塵(ちり)をかぶる意で、変事に際し、天子が難を避けて宮城の外に逃れることをいいます。

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