2017年8月4日金曜日

日夏耿之介「金色のエロス」

 きょうは『転身の頌』から「金色のエロス」を読みます。3部に分かれています。

   金色のエロス

(一)黄金欣栄

ああ 斯(こ)の崇高(けだか)き民戯よ
哀憐の黄金帝座に雙(なら)びあり
謙仰にして至純なれば自然の繁殖部に溺没す
群りあひ低語(さざ)めき又俯仰するは賤人(まちびと)らなり
虚空たかく晴れわたり太陽とともに逍遥す
金色の浄光は必ずその環境を鍍金(めつき)せり
時ありて密雲ふかく帝座は金声を点ず
哀しく君臨しかつ嬉しみて高蹈せり
夫れ ものみなの情熱による更生は
燦爛(きらめ)く黄金の欣栄か

(二)黄金王

火燭(くわしよく)に火とぼして この日
危き夜の世界をとぶらはむ
すべてのものことぼとくその原容をとり失ひ
譬へば捕縛せられし犯罪美少人のごとし
わが紫磨黄金(しまわうごん)の火燭の光ひとり栄(は)えて
燦爛と凄壮と立ち坐(ゐ)ならぶ也
このとき軽く われ しはぶきするに
灯は樸直(ぼくちよく)に火(も)え 躍り かがみ
すべてのもの ひとしく明滅す

茂林(もりん)の深緑に黄金の征矢(そや)わけ入り
暗紫(こむらさき)の陰影(かげ)など梢に啼きしきり
病める流星は夙(と)く南天を航す也
わがこがねいろの洋燈(らむぷ)は暗夜を遍照し
こころたのしみ華奢なる網代車に憩へる
月はなく 星も今は亡(な)し
ああ、太陽をや

(三)黄金王景

緑濃き草原(くさはら)を奔(はし)る細川のうちに
月夜(げつや)なり
黄金色(わうごんじき)ひかりあまねき天人の亡骸(なきがら)泛ぶ

うら寂び 浄く澄める細流(ながれ)のひまを
やすらかに睡むる銀鱗のむれびとよ
水底の力に伴(つ)れて
老いたる水藻(すゐさう)の鬚(ひげ)いともかすかに顫ふ也
天人のかばね赫灼と光れり
甘き羞明はわが心を襲ふ

ああ 黄金(こがね)なす妹好のしかばね
いとおびただしきソプラアノの連続は
めぐみ裕(ゆた)かなる生(いき)の身の光被者ぞもよ


「欣栄」(きんえい)は、よろこびと光栄、よろこばしい光栄。

「逍遥」は、気ままにあちこちを歩き回ること。

「高蹈」には、身を高く清く処する意があります。

「紫磨黄金」は、紫色を帯びた純粋の黄金で、最も良質とされたもの。紫金。紫磨金。

「征矢」は、鋭い鏃(やじり)をつけた、戦闘に用いる矢のことをいいます。

「赫灼」(かくしゃく)は、ひかりかがやくさま。

「光被」は、光が広く行きわたること、君徳などが広く世の中に行きわたることをいいます。

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